応用生物学専修・緑地環境学専修の研究領域

 20世紀の人口爆発に伴う食糧不足は、「緑の革命」と呼ばれる技術革新によって克服されてきました。しかし、21世紀に入って、地球上の資源不足と環境の悪化が顕在化するに伴って、農業に持続性と環境調和が求められるようになっています。持続的・循環型の生産活動のためには、生物多様性を保全するとともに、物質が適切に循環するようにしなければなりません。また里地・里山に象徴されるような美しい国土景観の維持や、都市における緑豊かな心安らぐ空間の創造など、生態系、環境、そして人間と社会に関する深い洞察と研究が必要です。私たちは、生物と生態系の仕組みを、生理生態学、微生物学、ゲノム科学、環境科学、情報科学などの最新技術を駆使して解明し、生産活動と環境との調和に根差した、新たな時代に求められる農業生物資源と生産システムの創造を目指しています。


砂漠化した土地を再生するための「処方箋」をつくる

 地球の全陸地の4割を占める乾燥地では今、過剰な放牧活動や不適切な耕作などによって砂漠化が進行し、深刻な環境問題が起きている。砂漠化はローカルな土地荒廃を招くだけでなく、気候変動や生物多様性消失等との相互作用を通じてグローバルな影響をもたらすため、その解決が急務である。緑地創成学研究室の大黒俊哉教授は、モンゴルや中国などの荒廃草原をフィールドとして、「診断」「治療」「予防」という3つのアプローチから、砂漠化した土地を再生するための研究に取り組んでいる。

 「診断」では、砂漠化した土地にどれだけの回復力が残っているのか、その土地に最も適した修復技術や土地の使い方は何かを見きわめるため、丹念なフィールドワークを行っている。「治療」では、砂漠化した土地を本来の環境に戻すための緑化技術の開発に挑んでおり、とくに植物のもつさまざまな生態系機能を活用したローコストな技術の確立を目指した研究を進めている。「予防」では、砂漠化の危険性を予測し、適切な対処を促すためのモニタリングシステムの開発や、砂漠化対処の費用対効果に関するシナリオ分析などを行っている。こうした多面的なアプローチにより、人々の持続的な暮らしを取り戻すための処方箋づくりが進められている。


日本初の「植物病院」で作物・環境の医療に取り組む

 人間や動物に病気があるように、植物も病気になる。植物病の原因は糸状菌や細菌、ウイルスのような微生物のほかに、害虫病、生理病、雑草害、汚染物質害、気象害など様々であり、人間の総合診療のように植物が健康でない状態を総合的に診るのが植物医科学である。応用生物学専修の植物病理学研究室は植物にもマイコプラズマ病が猛威を振るっていることを発見し、その基礎研究で世界的に有名だが、そのかたわら、難波成任教授は2008年、日本初の「植物病院」を東大に開設し、市民や農業法人、農業関連企業から診断依頼が殺到している。

 2009年に、東大「植物病院」は青梅市で長年発生していたウメの奇病の原因を特定し、それが我が国が海外からの侵入を最も警戒していたプラムポックスウイルス(PPV)であることを発見した。難波教授らは、直ちに世界最高感度・迅速・簡便・安価なキットを開発し、その結果、PPVが日本全国に蔓延していることを明らかにされるなど、国のPPV根絶事業に大きく貢献している。このほか、植物病院ネットワークの構築、植物医師の養成、国際会議の設立、途上国への安価なキットを用いた植物病の抑止事業の展開など、数多くの社会貢献を展開している。


ソルガムを用いた再生可能エネルギーの生産

 近年、化石燃料に替わる「カーボンニュートラルな再生可能なエネルギー」としてバイオ燃料に大きな期待が寄せられている。バイオ燃料の原料は数多くあるが、その中で応用生物学専修の植物分子遺伝学研究室・堤伸浩教授が特に注目しているのがソルガムというイネ科作物だ。ソルガムには草丈が5 mを超えるような高バイオマス品種も存在し、これを用いた燃焼用草本ペレットやメタン発酵によるバイオガス製造など、そのバイオ燃料としてのポテンシャルは極めて高い。一方で、バイオ燃料の増産には食料生産との競合という大きな問題があるが、ソルガムは他の主要作物と比較して各種ストレス耐性が高く、今後の改良により食用作物の栽培に適さない限界耕作地での栽培展開、すなわち食糧生産との競合を回避できる可能性は高い。

 堤教授はこれらソルガムのポテンシャルをより高めるべく、基礎研究から応用研究 (学内外との共同研究によるゲノム育種技術を用いた種々の品種改良) まで幅広い研究を展開している。これらの研究の進展により、近い将来食料生産との競合を回避したカーボンニュートラルな再生可能エネルギーの大量供給が可能となることが期待されている。